昔KYって言葉が流行ったよね
それを見た母はこの子はイケると思ったのだろう。祖母と共に、自分たちの趣味の世界へ私を引きずりこんだ。未だ人間か怪獣かの境目を彷徨う6歳の女児に、母や祖母は惜しみなく1万円近いチケット代を払い、毎月のように宝塚劇場へ私を連れて行っていたのだ。
子どもは残酷なほど正直だ。そんな1万円近い価値があるともつゆ知らず「ママ~、今日はあんまり面白くなかったね」、「飽きちゃった、ずっとおしっこ行きたいと思ってた」などとほざいていた。
少なからず私は「ここでは大人しくしなきゃいけない」と分かっていた。空気が読めたのだ。
まぁ今思えば拷問だ。つまんないお芝居でもいい子の振りして幕間まで大人しくお座りしてなきゃいけないんだから。
でもおかげで多少我慢強くなった。
人に迷惑をかけずに、おとなしくその場をやり過ごす術を身に付けた。つまらない芝居の最中は周囲のお客さんの人間観察をする。出演者のくせを見つけてみる。観劇だけじゃない。騒いではならない通学途中の電車ではあやとり*1をする。つまらない授業の最中は静かに寝る。どうにかしてこうにかしてその場をやり過ごすということを覚えたのだ。
様々な劇場で出会うのは私より明らかに年上なのにその場をやり過ごす術を身に付けていない人。格式高いと言われる歌舞伎だって、場内に入ればじじばばが好き放題やっている。よっぽどバカにされている2.5次元ミュージカルのオタクども*2のが教育されてるよ。
思わず寝ながらいびきをかいちゃう。携帯鳴らしちゃう。ビニール袋ガサガサしちゃう。隣の人としゃべりだしちゃう。
よく自分がされて嫌なことはするのを辞めましょうっていうけど、そういう人たちはきっとされても嫌じゃないんだろうな。
解決法なんてない。規則を作ったところでみんなそれを破る。携帯の電源切れって言ったって誰かしらが着信音を鳴らして周囲から白い目で見られるという茶番が毎日どこかで繰り返されてる。
だから私は今日も劇場で出会ううるさい年増を見て、まだ幼かった頃の自分のお上品さに優越感を覚えるんだ。